クッキーが伝えた彼女の言葉。
さて、いっさい触れられなかったエルリシャことエリー。
学生寮でその鼓動を止めたままの彼女の部屋の窓は、今も開いたまま。
もしかしたら…。
初めて来たときの要領で配水管から彼女の部屋へ。
やっぱり彼女は動いていなかった。
この部屋に初めて来たときと同じ姿勢のままだった。
部屋の真ん中にあるテーブルの上にあったクッキー籠が揺れた。
入ってきた窓を閉めきってなかったようだ。そこから風が入ってきてクッキー籠を揺らしたのだろう。
揺れた拍子に、手紙がもう一通あることに気づく。
文面から察するに、最初に読んだ手紙よりも前に書かれたものか…?
手紙をゆっくりと、一文一文確かめるように読み進め、最後に籠の中にあったクッキーを一口食べてみた。さすがに時間が経っていたので湿気っていたが大したことではない。
噛み締めると色んな事が思い出される。
彼女と会ったのはほんの少し前。交わした言葉もそれほど無い。
なのに…。
目を伏せ、踵を返し、入ってきた窓へ向かう。もちろんこの部屋から出るために。
窓から配水管へと手を伸ばし掴む。体をそっちの方へ預けたあと、一瞬迷ったが窓を閉めることにした。
もうここには戻らない。戻りたくない。でもさよならは言わない。
何故かそう思ったのだ。
地面に降りて改めて辺りを見回した。元々荒涼とした所だったが、今はやけにそれが強く感じられる。
風の音に我に返り歩を進めた。
足早に。それでも足取りは確かに。
冷たい風がその背を押してるようだった。